第9章 英雄の後ろ姿
「わ、私……が?」
「暖かくて、柔らかくて、優しい。今まで見た中で君が一番優しくて、真っ直ぐで、人助けに向いている性格だった。カインドネスよりもね。だから指名したの。」
「そ、そんな」
「いやぁ、びっくりしたなぁ。久しぶりに見た君は本当に優しくなっててさ。本当に、誰のお陰だろうね。」
嬉しい。嬉しくってたまらなくて涙が出そうになったのを必死で堪えた。
誰のおかげだろう。お父さんかな。お母さんかな。でも、きっと、自暴自棄のままの私だったらこんな風にはなれなかった。おばさんのお陰かな。家のみんなのおかげ?
ふと、あの後ろ姿が思い浮かんだ。あの、あの日のヒーローの背中。彼の、おかげ……?
そう思うとさっきまで泣きそうになっていた顔がだんだん真っ赤になっていく。
「えっ、顔赤いよ!もしかして、その相手って…彼氏!?」
「ちっ、違います!!……彼氏……になったらいいなって……。あぁ!えっと、な、なななんちゃって…!」
ポロッと余計なことを口に出してしまった。すると、事務所の人たちがわらわらと集まってくる。
なんだこの人たち!平和!
「えーやだー!キュンキュンする!!おじさん恋バナ好きでさ!聞かせてよ!」
「や、やですよ!!」
「丸田さーん、あまねちゃーん!何の話ですか!?恋バナっすか!?俺も恋バナ大好きなんすよ!」
「何だ何だ!?」
「恋バナだって!」
「あ、ああ、集まらないでください!!!」