第1章 外科医:瀬見英太
お互いに達した後で、ベッドの中でそのぬくもりを確かめあう。
疲れ切った羽音が瀬見の胸の中で規則正しい呼吸を始めた頃、再び彼のスマホが着信を告げた。
「マジで、しつこい…」
「かわいい後輩だね」
「悪い、起こした?」
羽音が首を横に振ると、瀬見は一旦ベッドから離れスマホを取りに向かう。
彼が抜けたベッドの中で、ホルマリンと彼の香りが混じりあう枕に顔を埋めた。
五色と会話をしながら戻ってきた瀬見は羽音を少し横に退かして自分もベッドに入り込み彼女の頭を自分の腕に乗せてやった。
彼の腕枕に幸せの時を感じる羽音。
「明日にしろ」
最後の一言をそう告げて電話を切った瀬見は、再び羽音を抱きしめる。
「うるさい、あいつ」
「嫌いじゃないくせに」
「まぁな…今度、初執刀あるから張り切ってんだよ五色」
この時期に牛島の許可が下りたなんて相当の出世だと羽音は思った。
完璧主義の牛島の元に来る研修医が執刀をさせてもらえることはほとんどないのだ。
「じゃあ、成功したら焼き肉行こうね、瀬見先生、介助するんでしょ?」
「何で、お前が焼き肉ついてくるんだよ」
「食べたいもん」
「もん!じゃねぇし…」
羽音は、甘えるように瀬見に抱き付いた。
「見に行こうかな、五色先生の初執刀&瀬見先生の指導」
「オペ室10番だからギャラリーないぞ」
「つまんない~」
牛島のように有名医師が執刀する部屋はギャラリーがついており、オペの様子を見学できるが研修医が執刀するようなオペではそういった設備は整っていないという事だった。
「じゃあ、やっぱり焼き肉行く!」
情事の後の羽音は普段より子供っぽくなると瀬見は思っていたが…そういう彼女も悪くない。
羽音の下腹部へ手を添えて、明日のオペの事を考え始めた瀬見であった。