第1章 外科医:瀬見英太
「英太君またサボり~?」
ソファーに腰かけて、糸を結んでいる瀬見英太は、当院のスーパー外科医牛島若利の片腕であり、彼もまた優秀な外科医である。
「サボりじゃねぇよ」
手を動かしながら天童に返事をしたが、ここは放射線科の詰所であり、外科の医局ではない。誰が見てもサボりではないだろうかと思われる。
「外科病棟行ったらいいじゃないですか」
天童の席の向かいのデスクから赤葦が声を掛けてくる。
「今日、羽音ちゃん夜勤明けで帰っちゃったんだよね~」
「関係ねぇよ」
天童の言う羽音ちゃんとは、瀬見の彼女であり外科病棟のナーススタッフの事で、天童はそれを面白がっていつもちょっかいを出していた。
「ここでおしゃべりしていくのって、英太君か木兎先生くらいだよね」
天童がチラッと赤葦の方を見るが、パソコン画面に目を向けている赤葦は特に彼の方へ顔を向けることもなく「暇つぶしにね」と返事をする。
各医師たちには医局という科別の部屋がありそこには自分達の専用デスクも用意されている。
牛島や木兎のように部長やエースクラスになれば個室を用意してもらえるが、医局は雑多な場所でのんびりするにはあまり適していない場所だ。
木兎の場合、赤葦の所に遊びに来るという目的で放射線科にきているが、瀬見の場合はのんびりしたい…が目的である。
「あんまりサボると、牛島先生に言いつけるよ。赤葦が」
「言いつけませんよ。外科に興味ないんで」
天童と赤葦の攻防を横目に瀬見は結んでいた絹糸を1本止め終えた。と同時に胸元のポケットに入れていたPHSがなる。
「仕事~?」
天童に言われて首を横に振る瀬見は通話ボタンを押した。
「今?放射線科…」
面倒そうに答える彼の顔を見て、PHSの相手を理解した天童。
PHSを切った瀬見は大きなため息をついた。
「助手?」
最近の瀬見の悩み……後輩がめんどくさい。
春に入職してきた五色工は牛島に憧れて第一外科に配属された研修医だ。
多忙な牛島が指導できない時が多い為、瀬見が面倒をみている。
「英太君、明日飲み行く?」
「明日?当直…」
「残念」
天童は、そんな瀬見の相談役でもあった。