第2章 精神科医:黒尾鉄朗
最奥の観察室からの叫び声…初めのうちは慣れなかったこの騒動にも最近では慣れっこになった。
精神科で働いているといろんな人間模様が見えてくる。
心の病とは難しいもので、自分も病気なんじゃないかと思える時もあったりして…。
精神科の病棟では、突然症状が発症し暴れ出す患者様も少なくはない。
患者様が暴れ出した場合、女子職員はステーションに避難し男性職員が対応することが基本となっている。
しばらくして、数名の男性職員と主治医の黒尾先生が戻ってきた。
「落ち着いてくれてよかった」
誰かが安堵の声をあげて胸を撫で下ろす。
この場合、患者もスタッフも命がけなのだ。
「誰も怪我してないかな?」
最後に戻ってきた黒尾先生が女子スタッフの方へ声を掛ける。
「大丈夫です」
返事をすれば黒尾先生が頭にそっと手を乗せて撫でてくれた。ほんの少しドキッとした自分が恥ずかしくも思えてしまう。
黒尾先生は、精神科でも人気の高い先生で患者様からも良く慕われている。
スタッフからも尊敬されている存在で、頼れる先生だ。
彼女でもないのに実は、何度か身体を重ねたこともあるのはここだけの話…。
絆された…と言えばそうなのであるが、自分の優柔不断さもあったので仕方がない。
本当は、ちょっと好きなのかもしれないと思っているという事は片思い…なのかもしれない…。
モヤモヤと一人で考えていると、いつの間にか黒尾先生も退室しており通常業務に戻っていた。
残務を終わらせてしまおうと羽音も仕事に戻る。
「今日も、残業かな~」
呟きながら、小さなため息をついた。