第9章 J'adore

「聞いてやらない。

あんたの好き、は誰にでも向けられてるから。
どうせ、信長様や秀吉さん、他の奴らにも言ってるんでしょ…



…だから、俺が言う」




口付けの余韻で熱く火照った頬を、家康の冷たい手がゆるゆるとさする。
信じてもらえないのだろうか、伝えられないのだろうか、と一瞬落ち込むも、付け加えられた言葉にみっともない程高まる期待で、また熱が上がる。




「千花が来てから、おかしいんだ。
知りたくなかった俺の弱い部分が、どんどん曝け出されていく…初めは怖くて、それを隠したがってた。

でもあんたがいとも簡単に、受け容れるから」



家康が、思案しながらぽつぽつと紡ぐ言葉が、胸に落ちてくる。
全て聞かなければならない、と目が、耳がそちらを向く。




「だから、俺自身、こんな俺を受け容れなきゃならないって漸く気付いた。

認めたくなかった、弱い自分を…
でも、あんたを失う事に比べたらずっとマシ」



ぎゅ、と家康の腕の力が強くなる。
優しく心も体も絡め取られ、息が詰まる。