第2章 口直しのいちご牛乳
ガラッと開く万事屋の玄関の戸。続いてがさごそと靴を脱ぐ音が聞こえてきて、もう仕事終わったアルか、と神楽ちゃんが明るい声をかけた。音の主は小さく返事をして、廊下を軋ませながら部屋へ向かってくる。
銀さんが今日の仕事は1人で十分だと言うから僕らは留守番をしていた。家を出て行ったのがたしか9時半頃で、今が10時半だ。いや早すぎるでしょ。僕は溜息を吐いた。
「本当に仕事だったんですか?嘘吐いてパチンコとか行ってたんじゃないでしょうね?全くそんなお金があるならいい加減僕らの給料に…」
回してくださいよ、そう言っていつものアホ面を睨み付けてやろうと思ったら、目に入ってきたのは頭から液体を滴らせてぼーっとしているアホ面だった。
驚いたのは神楽ちゃんも同じだったらしく、目をぱちくりとさせていた。
「どうしたアルか!」
「ちょ、なんで濡れてんですか」
雨降ってないよね?こんなにも晴れてるし!
僕が窓を指差して突っ込んでいると、少し鬱陶しそうな表情に変わった。
「いちいち小言がうるせーな」
銀さんがどかっとソファに座り込み、そこへ神楽ちゃんと定春が駆け寄った。1人と1匹で囲み、くんくんと匂いを嗅いでいた。神楽ちゃんが、なんかちょっと甘い、と訝しむ顔をした。
「甘いもん好きすぎて頭から被ったアルか、変なの」
「もーマジでお前らうっせーな…」
頭を掻き毟りながら何かを呟いている。銀さんの濡れてベタついた髪からほのかに甘い香りが流れてきた。一体何を被ったんだろう。ぼやきもいつもより弱々しい。ぼそぼそと、レモネードがどうとか、プリンがどうとか……あれ、やっぱり甘いもんじゃねーか。
僕は洗面所まで行きタオルを二枚掴む。髪を拭くためのものと、もう一枚。まだぶちぶち言っている銀さんに差し出すと、いつもより情けないアホ面がこちらを一瞥した。
「何があったか知らないですけど、シャワー浴びてきたらどうですか?」
そのままじゃ風邪引きますよ、とまた小言を浴びせたが、銀さんは素直にタオルを受け取った。
「…あー、そうだな、そうするわ」
立ち上がるとのそのそと風呂場へ消えていった。僕と神楽ちゃんは顔を見合わせた。
「今日の銀ちゃんなんか変ネ」
「少し気持ち悪いくらいだよね」
おいガキども聞こえてんぞ、と風呂場の方から声が聞こえてきて、やっぱいつも通りかもと思い直した。
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