Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「あっ……待って、ペトラ!!」
「エミリ……!」
手を伸ばして後を追おうとするが、アメリに手首を掴まれたため、前へ進むことができない。
「アメリ、はなし」
「今は、追いかけちゃダメ……理由、言わなくてもわかるでしょ?」
アメリに諭され、エミリはその場で顔を俯かせる。そんなエミリの足元に滲むのは、数粒の涙。
「……ペトラ」
いつだって、どんな時だって、自分の味方でいてくれた。自分を支えてくれていた。そして、今回もきっと、会えば「心配したんだから」と、呆れながらも許してくれると思ってた。
しかし、どうやらそのペトラの優しさに甘えすぎていたらしい。
「ペトラ、ごめん……」
再び渦巻く罪悪感。それは、大切な親友の心を傷つけてしまったことから、湧き出たもの。
ペトラを巻き込みたくなくて、巻き込んで傷つけたくなくて……だから、言わなかった。だけど、そんな自分よがりの優しが、返って彼女の心に深い傷を負わせてしまったのだ。
『何かあったら貴女を頼るし、私たちを頼ってほしい。エミリは私たちの大切な親友よ。エミリはひとりじゃない、いつでも隣に居るから』
今更、あの言葉が思い浮かぶ。エミリの過去を知ってなお、大切な親友を思って発した言葉。あのとき、ペトラはどんな気持ちでこの言葉を伝えたのだろう。
「……ごめん」
エミリがしたこと。
それは、きっとペトラのあの言葉に、思いに対する裏切りだ。
「ごめん、ペトラ……」
嗚咽を混じえながら、この場にいないペトラへ「ごめん」と繰り返すエミリ。そんな彼女の背中を撫でるのは、隣で深刻な表情を浮かべるアメリだ。
少し離れた所では、複雑な表情で、涙を流し続けるエミリを、ただ黙って見つめ続けるリヴァイがいた。
吹き抜ける生暖かい風。それに合わせて小さく左右に揺れるのは、少し枯れてしまった小さな花たちだった。