第22章 「母さん……」

初めて体験した大人のキス。しかも、まさかそれがファーストキスでそうなるなど、夢にも思わなかった。
状況が状況であったため仕方がないのだろうが、それにしてもこれは、エミリにとって一大事である。


(…………でも、嫌じゃなかった……かな)


普通、恋心を宿していない相手にそのような行為をされれば、不快感が襲うものだろう。しかし、何故かそれがない。


(……なんで？　兵長、だから……とか？　え、それもそれでおかしくない？)


またもや現れる謎に、もう心も頭もパンクしそうでいっぱいいっぱいだった。
初めての体験と予想外の展開、増える疑問と共に激しく揺れ動く心が、エミリの冷静さを奪って行く。


(……あれが、大人の……キ、ス…………)


再びあの時の感覚を思い出し、頬を熱くさせてはブンブンと頭を振る。それでも、なかなか離れてくれない。


(どうしよう……どう、しよう…………)


こんなにも意識してしまえば、もうマトモにリヴァイと顔を合わせられない。
隣にいるだけでも、こんなにも心臓の鼓動が激しく動いているというのに……


(……兵長の、バカ……)


胸を抑え、布団の中で蹲る。
そんな状態で、これからリヴァイとどう接して行くかを考えていたが、困惑の頭で良い案が浮かぶはずもなく、ただぼーっとキスの感覚を思い出しては、その熱を振り払うのに必死だった。


「おい」


そんな時、布団の外から掛けられる低音の声。それを耳にしたエミリは、身体を震わせ考えることを止めた。いや、止めさせられたと表現するのが、正しいのかもしれない。

まだリヴァイと顔を合わせる覚悟などできていない。それでも、呼ばれたからには無視するわけにはいかないだろう。
エミリは、恐る恐る布団から少し顔を出し、横たわった状態でエミリの登場を待っていたリヴァイの姿を目に映す。