Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
遠くから聞こえる音に、エミリはゆっくりと瞼を開けた。ぼんやりとした意識がはっきりしたものへと変わっていき、その音が小鳥のさえずりであることを認識する。
朝を知らせるそれに瞼を擦りながらゆっくりと寝返りを打った。
「ッッ!?」
そして、一気に脳が覚醒する。
目に映った光景に声を上げぬよう片手で手を抑えながら、その端正な顔をまじまじと見つめることしかできない。気恥しさが込み上げる中、驚きによって停止した呼吸を再び再開させる。
(……あ、そっか。昨日、あの後……)
冷静になった頭で考えるのは、夢の世界に入る前の出来事である。
何故かリヴァイに「天然タラシの無自覚バカ野郎」と吐き出され、暫く口喧嘩を続けていた。しかし、喧嘩の趣旨が段々と逸れて行き、最終的に結局誰がどこで寝るかという話へと戻っていったのだ。
自分は布団を使い、上官でありまた怪我を負っているリヴァイをソファで眠らせるなど、できるはずがないと主張するエミリだが、リヴァイは部屋の主の言うことは聞くものだと言い張り、お互い意見を譲ろうとしなかった。その結果、
『なら、兵長と私と半分こでベッド使いましょう! これで、お互いの意見は通るはずです!!』
『おい待て。お前本気で言ってんのか。だから天然タラシの無自覚バカ野郎って言われんだ』
『それは兵長が勝手に言ってるだけじゃないですか!! 兵長にそんなこと言われる筋合いはないです!』
『わかった。なら言い方を変える。お前、自分が言ってることの意味わかってんのか。無防備にも程があるだろうが』
『兵長は大人なんですから、どーせ子どもの私になんか興味ないでしょ! 問題ありません! てことで私は寝ますおやすみなさい!』
そんな経緯があり、半分でベッドを使うこととなってしまったわけだ。
エミリとしては、あの喧嘩自体が面倒で仕方なくなってきたと同時に馬鹿馬鹿しくも思い、強制的に終わらせるためにあんなことを言ってしまったのだが……
(……今思えば私、なんてことを……)
かなり大胆すぎる提案に恥ずかしさから布団に潜る。
普段の自分であれば絶対に有り得ない発言だ。完全にあの時は頭に血が上っていたとしか考えられなかった。