Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
しかし、疑問である。エミリにとってリヴァイは、きっと世話焼きの上司でしかないだろうに、どうしてそこまで気にかけようとするのか。
「なぜ、そう思う」
「なぜって言われても……」
改めて問われると、答えが出ない。
いや、これでは語弊がある。答えが出ないのではなく、きっと、理由がないのだ。
「大切な人を心配するのに、理由なんているんですか?」
「………………は?」
「え?」
サラリと爆弾を落とすエミリの発言は、リヴァイに軽く目眩を起こさせた。本人が当たり前のように言ってのけるからである。
もちろん、エミリにとってリヴァイは、確かに何度も自分を助けてくれた大切な人であることに変わりはないだろう。
しかし、そんなことを真正面から当然のように言われてしまうと、変に期待を持ってしまう。
「……兵長? どうしたんですか?」
目を丸くして固まったまま動かないリヴァイの様子を不思議に思い、エミリがコテンと首を傾ける。
「…………この天然タラシの無自覚バカ野郎が」
「はあ!?」
そして突然飛ばされた暴言にエミリも思わず、腹の底から声を上げた。
「そ、それ私のことですか!?」
「お前以外に誰がいる」
「酷いですよ!! 何なんですか、天然タラシの、えっと…………無神経のアホって!!」
「無神経のアホとは言ってねぇ。無自覚バカ野郎っつったんだ。バカ野郎」
「無神経以外ほとんど意味変わんないじゃないですか!!」
そこから始まる言葉の応酬。リヴァイが何か言えば必ずエミリが怒鳴り散らすという、なんとも単純な口喧嘩が勃発していた。
(おい、なぜこうなった)
何故も何も、自分がエミリに天然タラシの無自覚バカ野郎などと言ったからであろうと、エミリと口喧嘩を続けつつも、内心冷静に分析する。
(待て、そもそも俺は間違ったことは言ってねぇはずだ)
エミリの発言は、どう考えても自覚が無い天然タラシである。そこにバカを付け加えただけ。
要するに言い方が悪かっただけで、別に間違ったことは言っていない。一応。
(そもそも、こいつが余計なことを言うからだ……)
こっちの気もしらない癖にと、心の中で文句を垂らしながら、ただひたすらエミリと数十分の間、言い合っていた。