Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「ルル!!」
切断された方の腕を抑えながら、悶え苦しむオドの姿に目もくれず、斧を捨てたエミリはルルの元へ駆け寄った。
「ルル、しっかりして!! ルル!!」
抱き上げ様子を見るも、意識が無いのかエミリの掛け声に反応が無い。
「いや……ルル、お願い……死なないで」
込み上げる涙。それは、ルルの頬にポタリ、ポタリと落ちていく。
まだ小さく呼吸はしているが、かなり危険な状態であることはわかる。
「……ルル……覚えてる? 一緒に、お月様とお星様見ようって……言ったでしょ?」
泣かず、弱音を吐かず、誰にも頼ることなく、我儘を言うこともせず、一番歳上のお姉ちゃんとして、小さな体で他の子どもたちを守っていたルル。
そんなルルが流した涙を思い出す。
「また、お日様も見ようよ……一緒に見よう!! ここから出たら、楽しいこといっぱいして、美味しいもの皆で笑って食べて……あそんで…………だから、」
目を閉じたまま動かないルルに向けて、奇跡を祈って、もう一度、言葉をかけた。
「ルル……生きよう、一緒に……」
胸の奥から込み上げる苦しさに耐えながら、掠れた声で言葉を紡ぎ、強く、けれど優しくルルを胸の中に抱き締める。
「……ルル?」
その時、小さく上下していた背中の動きが止まった。
「…………ねぇ、ルル?」
ルルの背中に置いている自分の手が、僅かに震えている。
信じたくない現実が頭を過ぎった瞬間、エミリは言葉を失った。そっと胸の中に収めたルルの顔を確認する。
言葉通り、ピクリとも動かない体。ルルの胸に耳を当てても、そこから聞こえるはずの音は、全く聞こえなかった。
「…………そん、な……うそ、だよね。ルル……?」
手の震えが体全体に行き渡り、声をも揺らす。受け入れ難い真実に体が思うように動かず、ぎこちない手でルルの頬に触れた。
「ねぇ、ルル……起きて? おねがい……目を、あけて。……ル、ル! ルルぅ……!!」
ルルの後頭部に手を回しギュッと抱き締め、そして、悲鳴にも似た声を上げた。
「や、だ……やっ、ぁ………………い、やぁぁあああああッッ!!!」
ルルの肩に顔を埋めて泣け叫ぶエミリの声。それは、未だにもがき苦しむオドの呻き声をかき消し、虚しく辺りに響き渡った。