Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
「久しぶりだね、エミリ」
憎らしいほどに爽やかな笑顔で口を開いたオドは、エミリやリヴァイの姿を目にしても動じることなど無かった。
まさか、二人が研究所に乗り込むことを想定していたというのだろうか。
「知っていたよ。君が資料を持ち去ったことも、今日この日に必ずやって来ることもね」
「……え」
「だけど、わざと泳がせておいたんだ。だって君なら、この光景を見ることに損は無いだろう?」
「は?」
何を言っているのかさっぱり理解ができない。完全にオドは、自分一人の世界に入り込んでいる狂人だった。
「……損は無いって、損得の問題じゃ……ない、でしょ? あなた、自分が……自分が何をしているのかわかっているの!?」
こんなにも幼い子どもたちを利用し、命と未来を奪い、それを素晴らしいとでも評するのだろうか。
その考え方に理解が追いつかない。しかし、オドの瞳は、少なくともそう語っている。
「……わかっているさ。だからやっているんだよ。子どもたちを使って」
返ってきた回答は、予想通りのもの。今ですら笑みを絶やさずに、自分が行ってきたこの実験を、自分で讃えているかのように見える。
エミリの頭は混乱するばかり。理解ができていない頭で、再び叫ぶ。
「意味わかんない。だから? だからってなに……!? どうしてあなたは、そう平然としていられるのよ!!」
必死な形相で問い詰めるエミリは、怒りが爆発する寸前だった。
また暴走されては適わない。リヴァイは、エミリの肩に手を置きながら、二人の会話の様子を見守る。
「エミリ……君は、僕が嫌いな部類に入るかもしれないよ」
「は? そんなの知らない。いきなり何なの? 嫌いって……好きにすればいいじゃない!」
自分でも何を言っているのかすら、わからなくなっていた。苦しそうに声を上げ続けるエミリを見つめながら、オドは顔からとうとう笑みを消し、静かに切り出す。