Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
エミリは黙ったまま、膝の上で拳を作り浮かない表情を見せていた。
突然持ちかけられた話は、自分の今後を左右するもの。その場の勢いに乗って、いい加減に答えて良いものではない。
沈黙がエミリたちを包む中、彼女の迷いを察したファティマが、再び口を開いた。
「……ごめんなさい、急だったわね」
「…………」
「返事は急がないから、ゆっくり考えてちょうだい」
「……はい」
ファティマの言葉に甘え、エミリはゆっくりとソファから腰を上げた。
ファティマとエルヴィンに一礼した後、少し背中を丸めながら扉の方へ歩いて行く。
その後ろ姿からは、エミリのいつもの明るさや元気の良さが全く感じられない。
そのまま弱々しい声で、「失礼しました」と一言添えて退室したエミリの表情には、はっきりと心の揺れがそこに表れていた。
エミリの居なくなった団長室に、再び沈黙が訪れる。
エミリと同じように深刻な表情を浮かべるハンジと苛立ちを隠せないリヴァイ。そんな二人に対してエルヴィンとファティマに、表情の変化は特に何も無かった。
「おい、アンタ……一体どういうつもりだ?」
優雅に紅茶を頂くファティマの態度が癇に障り、リヴァイは少々敵意を込めた問いかけをする。
しかし、ファティマはそんなリヴァイに対しても平然としている。
「優秀な人材を見つけた。だから勧誘したまでのことです。あの子の存在は、私にとって大きなメリットになりますから」
「メリット? どういう意味だ、そりゃあ……」
「私には……いえ、私たちには、あの子が持つ純粋な”心”が必要なのです」
そう説明されるが、ファティマが何を求めているかまでは、やはりはっきりとはわからない。
わかるのは、彼女がエミリを欲する理由はそこにあるということだけ。