Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第18章 分かれ道
「あの、待って下さい……兵士を辞めるなんて、私には考えられません」
エレンが外の世界へ行きたいとエミリに打ち明けたその時から、兵士の道を進むことを決めた。
弟よりも一足先に調査兵団に入って、大切な家族を守るために戦うと決意したのだ。
それを今更変えることなど、エミリにはできない。
そして何より、母親を失ったあの光景がエミリの中に永遠と存在する限り、兵士の道を進み続けるだろう。
「……先生、以前お会いした時にもお話しましたが、」
「わかっているわ。貴女の弟のことも、お母様やグリシャさんの話もね。私は、わかった上で貴女に話をしているのよ」
エミリはわからなかった。
どうしてそこまでさせて、薬剤師の道のみを進ませたいのか。
それがわからないというのに、訳も分からず断ることなどできない。
もちろん、彼女の話に頷くつもりもないが、このまま謎を残したまま話を断るのは、良くないと思った。
「…………エミリ、貴女はまだちゃんとわかっていない。兵士のまま薬剤師を目指すことで、この先貴女に待っている現実がどんなものであるか……」
「え……?」
薬剤師を目指すと決めた時から、二つの道を両立することはかなり困難であると言われてきた。
それは、調査兵団という過酷な環境の中で薬剤師の勉強をこなすには、とても長い時間と労力が必要であるということ。
普段の兵士としての訓練を続けながら、膨大な知識量や技術を完璧に自分のものにするためには、それ相応の忍耐力が求められる。
しかし、ファティマの言いたいことは、きっとそれとはまた別の問題なのだろう。だが、その”問題”が何なのか……今のエミリにはわからない。
「……まあ、その話はまた今度にしましょう。何よりも私が一番言いたいこと……貴女には、大きな可能性を感じているということよ」
「……可能性、ですか?」
「知識や技術はまだまだだけど……それらをしっかりと身につけることができれば、貴女は素敵な薬剤師になれるわ」
ファティマの褒め言葉に、エミリは少し頬を赤くして視線を足元へ逸らした。
さっきまでの厳しい言葉とは全く逆の言葉には弱い。褒め慣れていないエミリには、尚更気恥しかった。