Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第5章 壁外調査
「二人とも無事だったようだね! 遠くから見てたけど、エミリもなかなかの動きだったよ!」
「どうも……」
例え、忘れてしまいたい程の過去があっても、その全てがマイナスになる訳では無い。
どれだけ泣言を言っても過去は変えられない。ならば、未来でそれをプラスに変えていけば良い。
あの日の忌まわしい記憶は、きっと消えない。心にも大きな傷を残し続けるだろう。それでも、あの日に自分の身に起こったことは、自分が壁外で戦う現在(いま)のためにあったのかもしれない。
「緑の煙弾……進路に変更は無いようだね。予定通り、このまま進もう」
全員、馬に跨り調査を続行する。
調査兵団で戦うことで、少しは自分の過去と向き合うことが出来るだろうか。乗り越えることが出来るだろうか。
そして、人類が自由を取り戻した時がきたら、その時はエレン、ミカサ、アルミンと四人で外の世界へ───
「後方より15m級接近!」
「!?」
四足歩行で追い掛けてくる巨人が見える。奇行種だ。
ニファが黒の信煙弾を撃ち上げる。
「全く、何でこういう時に限って……」
いつもならハンジにとっては大歓迎だが、よりにもよって、新兵がいる時にこんなにも奇行種と遭遇するのだろう。自分の運の無さにガックリと肩を落とす。
「エミリ! もう一度やれるかい?」
「分隊長、何言ってんですか!! エミリは新兵なんですよ!? いきなり奇行種を相手だなんて無茶です!!」
先程のエミリの討伐ぶりにハンジは彼女に期待を抱く。しかし、やはり不安なモブリットは否定する。
「この子なら大丈夫だよ! ね?」
「はい、やれます!!」
「よし、じゃあ行くよ!!」
「はい!」
「分隊長! エミリ!」
モブリットの声を軽く流してハンジは奇行種の方へ突進して行く。エミリもその後に続いて行った。
「全くあの人は……エミリも無謀すぎる」
見事な連携で奇行種を倒す二人を見ながら、モブリットはやれやれと溜息を吐いた。
それとも自分が心配性過ぎるのか。いや、至って正常だ。うちの上官の頭のネジが何本か外れているだけであって、自分におかしい点は何処にも無い。そして今回の新兵がたまったま勇ましかっただけだ。
モブリットはそうして自分を励まし続けていた。