Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第1章 その日
バチッ。
目を開けると兵舎の天井が目に映る。部屋の中は薄暗く、寝息だけが部屋の中に静かに響いていた。
可笑しな夢にエミリは瞬きを繰り返し、ボソリと呟く。
「……いや……誰よ……」
エミリと彼女の弟のエレンに話しかける謎の男性。顔ははっきりとわからなかった。
夢にしては少し奇妙に感じたが、夢でそういった変なものを見たりするのは何ら不思議なことではない。
「……ていうか、眠れない」
可笑しな夢を見たせいで逆に頭が冴え、二度寝しようにもできない。もぞもぞと布団の中で寝返りを打ってばかりだ。こんな暗い部屋の中では暇つぶしに本も読めない。時計も見れない。あとどれくらいで起床時間だろう。ぼんやりとそんなことを考える。
「……散歩でもしようかな」
このままベッドに居ても仕方が無い。何より暇だ。そう考えたエミリは、体を起こし団服に着替えて外に出た。
明け方、完全に日が昇っているわけではないためまだ外は薄暗い。
エミリは訓練でいつも使用している広間へ足を運んだ。
誰も人がいないためとても静かだ。風や木々の揺れる音、鳥のさえずり、自然の音がエミリの鼓膜を震わせる。
「早く……夕方にならないかなぁ」
朝の綺麗な空気を吸いながらグッと伸びをする。まだ、日も完全に昇っているわけでもないのに、日が沈んで欲しいと思うのは早すぎだろと自分でツッコミを入れた。
そんな中、頭に思い浮かぶのは可愛い弟であるエレンの顔だ。
今日は訓練が終わった後、ウォール・マリアにある実家へ帰郷する予定だ。大好きな家族と久しぶりに過ごせることを考えると思わず頬が緩む。
「よし!」
今日も一日頑張るぞ。
そんな意味を込めてパチンと頬を叩いた。