Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
訓練兵団へ戻ったエレンは、キースに報告をしてから宿舎の部屋へ荷物を置く。この時間は夕食だから、同期達は部屋にいない。食堂でご飯を食べているのだろう。
エレンはエミリに買って貰った三人分のヌスシュネッケンが入った紙袋を持って部屋を出る。
「あ、エレン!」
食堂に入ればアルミンがエレンの存在に気づき手を振る。その隣で食事をしていたミカサが勢いよく顔を上げた。
「おかえり!」
「ああ、ただいま」
アルミンに返事をしながらミカサの隣に着席する。そこには既にエレンの分の夕飯が置かれていた。ミカサが用意していたのだろう。礼を言ってからパンを手に取る。
「エレン! 姉さんはどうだった!?」
ミカサがエレンに詰め寄る。
エミリはミカサにとっても大切な家族であり、姉であり、女性として憧れている人だ。いつも実の妹のように可愛がってもらった。そんな姉を心配しないわけがない。
「全然大丈夫だ。むしろいつもと変わらず元気だった」
「そう、なら良かった」
「本当にビックリしたよね」
エレンの返答にミカサは安堵し、アルミンは苦笑を浮かべる。
「よォ、死に急ぎ野郎。愛しい姉さんのとこからお帰りか?」
「……ジャン」
三人で話をしていると口を挟んで来たのは、エレンの後ろに座っていたジャンだ。いつものように、馬鹿にするような口調と顔でエレンを徴発している。
「どうせ、優しい優しいお姉ちゃんに泣きついてたんだろうよ」
「…………」
「図星か? お前がそんなことやってる間に、俺は今日の訓練でも」
「勝手に言っとけよ」
ジャンの言葉を遮って、いつの間に食べ終わっていたのやら、エレンはガタリと席を立つ。いつもと違って反撃しないエレンに、ジャンは勿論のこと周りは皆驚いていた。ミカサとアルミンは慌ててエレンを追う。
「エレン、珍しいね? 姉さんと何かあったの? すごくすっきりした顔をしてる」
「そうか?」
「うん、してる」
それならエミリのお陰だろう。二人で話をしてから心がとても軽くなったから。
「姉さんにお前らの分もってヌスシュネッケンくれたんだ。食おうぜ」
「うん!」
三人並んで思い出のパンを齧る。
幼い時の約束と自由の翼を背負った姉の姿を思い浮かべながら、エレンは心の中で『ありがとう』と呟いた。