Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「う〜ん……」
「……ハンジさん?どうかしたんですか?」
いつもと同じようにエミリの見舞いへリヴァイとやって来たハンジが、さっきから腕組みをしながら唸って考え込んでいた。
最初は二週間後に控えた壁外調査や巨人のことを考えているのかと思ったが、何だか違う気がしてきたエミリは、ハンジの顔の前で掌をブンブン左右に振る。
「……実は迷っているんだ」
「迷っている? 何をですか?」
全然話が見えてこない。一体何を迷っていると言うのだろう。やはり巨人関連のことだろうか。それとも、この間新しく入った新兵達に問題でもあったのだろうか。
けれど、エミリが予想したこととは全く違う答えが返ってきた。
「エミリの監視役」
「はい?」
監視役? 監視役って何だ。何の監視? いや、私か。じゃなくて!!
「私の監視役!? どういう事ですか!!」
ハンジの悩みの種は巨人でも新兵でも無くエミリだった。自分だった。そもそも監視とは一体どういう事なのだろう。
「私達が壁外調査へ行っている間、エミリ一人じゃ心配だし」
「いやいやいや!! 大丈夫ですって! そんな心配しなくても」
「大丈夫じゃねぇから言ってんだろうが」
そこに、ずっと壁に背を預けて話を聞いていたリヴァイが会話に参加。心做しか眉間の皺が増えているように見える。
「お前、自分が今どういう状態か分かってるよな?」
「……入院してますね」
「そうだ。なら、それはどうしてだ?」
「…………橋から20m下にある森に飛び降りたからですね」
そこまで言って、ようやく話が見えてきた。つまり───
「俺達が巨人と戦っている間に、お前がまた余計なことをしないための監視を付けるという話だ」
「…………そう、ですか」
どうやらエミリは完全に厄介者になってしまったようだ。これで監視役など問題児と変わらないではないか。
「ちなみに監視を付ける提案を出したのはエルヴィンだよ」
「え、団長が……?」
またもや予想外の提案者にエミリは目をぱちくりさせる。
「あいつが心配性なだけだ」
「あれじゃあ、まるで娘を心配する過保護な父親だね」
呆れを含んだ吐息を同時に吐く二人に、エミリは戸惑いながら首を傾げていた。