第2章 首吊り死体のジレンマ
いとしい、という言葉が、私の頭の中でふわふわとしている。すきとかあいしてるとかいう言葉も、同じ。決して彼の前では口に出せない言葉だ。普通、セックスのときはそういう言葉が出てくるものだと思うのだけど、実際はどうなのだろう。この部屋では悲鳴や吐息だけが響いている。最初からそうだった。
彼のものが私の中へ入ってくると、どうしても身をよじってしまうのは、当初の名残なのだろうか。
今日はやけに疑問ばかりが浮かんでくる。
ふと彼の髪に触れる。リズミカルに揺すられる身体の振動で腕も震える。それでも触れていたくて、さら、さら、と彼の髪をすくってみるものの、やはりこぼしてしまう。
それを繰り返しているのに気付いたようで、彼は私の目を見た。私の曖昧な視線とぴたりと合う。情事に耽っている彼の瞳が、おぼろげに私を捉えている。瞳の中の光をじっと見つめていると、眩しくて敵わなくなって目を細めた。
はっ、と短く息が上がったかと思うと、彼は私の名を呼んだ。
途端に感情が押し寄せてくる。
感情が溢れて、私も彼の名前を、そして彼への愛を、囁きたくなった。
それが喉の奥でぐぐと縮こまる。代わりに小さく呟いた。
「さみしい」
彼が私を苦しめるのではない。私が私を苦しめているのだ。
相変わらず揺すぶられながら私は目を閉じた。
fin