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【YOI男主】大切な人【男主&勇利】

第2章 言葉よりも、雄弁に


純がコンビネーションジャンプに入って間もなく、リンクのあちこちからこれ以上ない程のどよめきが起こった。
「ウソ!?3Lzの後でまさか…」
「サユリ、お前マジで何モンなんだよ!?」
てっきり3Lzの後でトゥループあたりをコンビの続きとして飛ぶと思われていた瞬間、何と純は利き側とは逆回転の2Lzを付けたのである。
「競技では大して点にならんが…ここまで正確なエッジワークと回転が出来るとはな」
「体幹とスケーティングの基礎がなされているからこそ、ね。どんなに高度な技を覚えても、そこは揺らがない大事な要素だわ」
その気になれば逆回転の2Aまで飛ぶ事の出来る純だが、コンビネーションで逆回転を飛ぶのを見たのは初めてだった勇利も、思わず息を飲んだ。
自分にはないスケートの能力や魅力を備えている純。
あの夜、藤枝からの言葉に決意を込めて返事をした勇利は、刹那スマホの向こうで絶句している藤枝の様子に気が付くと「すみません、言葉が足りませんでした!『純の力が欲しい』です!」と慌てて訂正した。
そして、「純も、絶対スケーターとして滑りたい気持ちはある筈です。だから、僕も自分なりの方法で純をその気にさせてみたいと思います」と続けたのだ。
「…もう出し惜しみしないでよ。僕は、純の言葉以上に君のそのスケートが一番欲しかったんだ」
勇利の視線に気付いた純が、リンクから黒い瞳を細めてくる。
まるで純の現役最後の試合だった昨シーズンの全日本の時のように、互いの気持ちが氷の上を通じてはっきりと繋がり合うのを、勇利と純は全身から感じていた。
(『誘惑したつもりが…私はとっくに貴方に誘惑されていた』)
(僕に遠慮はいらない。一緒に行こう)
(『でも私は、貴方となら堕ちたって構わないの』)
(これからも、お互いのスケートを)
((──どこまでも))
フィニッシュに合わせて膝をついた純が、持ち前の柔軟性を活かしてリンクに頭が着く寸前まで上体を仰け反らせると、一瞬の沈黙の後で拍手が沸き起こった。
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