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【YOI男主】大切な人【男主&勇利】

第2章 言葉よりも、雄弁に


氷上で舞う純の姿を見つめながら、勇利は藤枝との電話でのやり取りを思い出していた。

あの夜。
泣いて取り乱す純からスマホを取った勇利は、藤枝からの恫喝を覚悟していたが、意外にもスピーカーから聞こえてきたのは、穏やかな彼の声だった。
「お前がどう思ってるかは知らねえが、純は決して強くなんかねえ。なまじ頭が良い分、考えられる限りの予測や可能性を必死にシミュレートしながら、それに対応しているだけだ」
だから自分が傍にいない今、出来るだけ純を気にかけて欲しいという藤枝に、勇利は承諾の意を示した。
「あの頃のお前達は、しなくて良い苦労をしっ放しだったな。直接関係のない俺でもうんざりする程、大人げねぇ奴らの代理戦争みたいな真似をさせられて」
「…それでも僕は、滑り続けていましたから。あんな事になってしまった純は、きっと僕より辛かったと思います」
勇利と純がシニアに上がった頃、当時2人が師事していたコーチ同士が現役時代ライバル関係にあった事から、練習や試合の度にやたらと「勇利くんは出来るのに何で君は出来ないんだ」「上林くんの試合の落ち着きを見習わないか」等、互いを引き合いに出した指導や指摘ばかりされ続けていたのだ。
そのせいで、決してお互いを嫌いではなかったのに、勇利達の間には妙な溝が広がってしまい、やがてシニア3年目直前に純が膝の大怪我をしてからは「君は上林くんのようにはなるなよ」と毎日のように繰り返され、とうとう嫌気が差した勇利は、シーズン途中でそのコーチとの師弟関係を解消し、別のコーチに変更したのである。

「そんなお前らが今こうして判り合えた事は、本当に良かったと思っている。しかし…本音を言えば、俺は今でも純にリンクに戻って欲しい気持ちがある」
感情の籠められた藤枝の声に、勇利は黙って耳を傾けていた。
「お前のお蔭で、純は振付師としてスケートの世界に残ってくれた。だが俺は、リンクで舞うあいつを見るのが一番好きなんだ。あいつのスケートには、お前とは違った魅力がある」
「…判ります」
全日本で見た純の演技を脳裏に浮かべながら、勇利は小さく頷いた。
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