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【YOI男主】大切な人【男主&勇利】

第2章 言葉よりも、雄弁に


(今のは、競技やったら多分UR食らっとったな)
上手くスピードに乗れた結果どうにか3Aを着氷する事が出来た純は、内心ホッとしていたものの表情には一切出さず滑り続ける。
バタフライからのシットスピンの後で、演目の『SAYURI』同様、彼の十八番とも呼ばれるドーナツスピンの体勢を取ると、リンクのあちこちからどよめきが起こった。
「以前ジャパンナショナルの動画でも観たけど…男がドーナツスピンであそこまでのポジションとスピードを維持出来るのは、珍しいね」
「あのスピンと柔軟性だけは、僕が純に絶対勝てないモノなんだ」
「…勇利にそこまで言わせるとは、大したもんだ」
そう言い切る勇利の真剣な横顔を、ヴィクトルは興味深げに見守る。
純はリンクからそんな2人の様子を盗み見ると、次の要素に行く為に体勢を変える。
(僕には、勇利のような力強さや華はあれへん。せやけど、要素の大切さや繋ぎ方なら、僕なりのやり方で伝える事は出来る。…刮目しい、これが上林純の舞や)
右膝への負担を減らす為に編み出した片足のみのステップを滑らかに刻みながら、純の両手は音に乗りながら独自の型を取った。
「あれは何だ?バレエの振りとも違うようだが」
「…昔、日本で観た歌舞伎の女役の仕草に似ているわ。付け焼き刃ではなく、自然と彼の身に染み付いているようね」
腕を組み直したヤコフに、隣のリリアが答える。
「競技者としては大成しなかったようだけれど…中々どうして、面白いわ。ユウリ・カツキとは全く異なるスケートをするのね」
冷ややかな視線はそのままに、リリアはほんの僅かだけ口元を綻ばせた。
控えめな手つきや僅かな視線だけで、色男を誘惑する女性を演じる純から醸し出される魅力に、ギャラリーの女性達だけでなくギオルギーをはじめとする男性選手やコーチからも、感嘆の溜め息と視線が注がれる。
「…ケッ、何が『競技者の僕は、勇利の足元にも及ばない』だ。ニッポンジンって、嫌味なくらい自己評価低過ぎなんだよ」
「あら、おこちゃまなのに上林の魅力が判るの?」
「う、うるせぇ!」
ミラの揶揄にムキになって反発したユーリだが、その視線は純に釘付けになっていた。
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