第4章 *ひみつの… 【中村悠一】
「今日はありがとうございましたー!!」
ステージ上でそう叫ぶ彼。
声援を浴びながら、笑顔で手を振る彼。
そんな彼を関係者席で眺めてる私。
『はぁ。』
わかってはいるけれど、遠いなあ…
大好きな彼のイベントに誘われたので、ふたつ返事で参加した。
ステージに立つ彼はいつも以上にかっこいいし、その作品も好きだし。
私はその日が来るのをとても楽しみにしていた。
…しかしいざ来てみると、それは新人の私と人気者な彼との距離を再確認したに過ぎなかった。
いや、楽しかったけど!
イベントが終わる少し前に会場を出て、楽屋へと向かう。
スタッフの方々に挨拶をしながら、彼の元へと急ぐ。
なんだか、今すぐ会わないと
もっと遠くへ行ってしまうような気がする。
はやる気持ちを抑え、早歩きで舞台裏を抜ける。
「あ、早瀬ちゃん。来てくれてたんだ。」
ふと声をかけてくれたのは、さっきまで彼と一緒にステージに立っていた櫻井さん。
『櫻井さん。お疲れ様です!』
私と彼との関係を知っている数少ない方。
「中村くんなら、次の突き当たりを左に行ったとこの楽屋だよ」
バレないようそっと彼の居場所を耳打ちしてくれた。
『あ、ありがとうございますっ』
小さく頭を下げ、小声でお礼を言う。
いってらっしゃいと背中を押してくれた櫻井さんは、額の汗を拭っていた。
同様に早歩きで楽屋を目指す。
教わった通り突き当たりを左に曲がったすぐの楽屋を訪ねた。
コンコンコン
3回ノックする。
「はーい、どうぞー」
すると大好きな声が返ってきた。
失礼します、と声をかけながらドアを開け中へ入った。