第7章 若獅子と不良娘①~優しいひと~
「隣は某の部屋で、某の隣の部屋が佐助の部屋でござる。何かあったら遠慮なく声をかけて下され」
「…ま、大将のお許しも出たし、ゆっくりしてけばいいよ」
じゃあね、と先程とは比べものにならないほど穏やかな視線を残して自室に戻っていく佐助に、こっそり安堵して。
最後の目的地である風呂場へと向かった。
風呂場の前で、ずっと繋がれていた手がそっと離される。
その瞬間、言いようのない感情が胸を締め付けた。
「……その…いろいろ、ありがとう…」
「某が勝手に連れてきたまで。気にすることはないでござる」
ぽつり、と呟くように御礼を言えば幸村は嬉しそうに笑う。
「……ゆき。」
「…え?」
「…私の名前!おやすみ、幸村っ」
「!」
驚いてる幸村から逃げるように、ばたんっと風呂場のドアを閉めて深く息を吐く。
てのひらの温もりも、大きく感じたあの背中も。
彼のすべてが、今の私には涙腺を緩ませるものでしかなくて。
それでも必死に泣くまいと、唇を噛み締める。
優しい幸村を想って泣くなど、会って間もない彼にそこまで甘えられない。――否、甘えてはいけない。
きっと、
抜け出せなくなって、しまうから…
「……おやすみ、…ゆき殿…」
ドア越しに聞こえた彼の優しい声音に、堪えていた涙が静かに頬を伝った…。
…to be continued.