第7章 若獅子と不良娘①~優しいひと~
スーツに身を包んで、夜の歓楽街を歩く。
仕事の所用で来たものの、やはり自分はこういった所が苦手で。
あちらこちらに広がる艶めいた駆け引きや、酒気の混ざった喧騒に、深くため息をついた。
「…用事も終えたし、早く帰るでござる…」
武田の若頭という立場上、仕事となればどこへでも出向くし、文句をいうつもりなど毛頭ないが、苦手な場所というのはいるだけで疲れる。
屋敷に帰ったらゆっくりと湯にでも浸かろう、そう思って足早に路地裏を通りかかったとき、
「触んないでよ、この変態!!」
威勢のいい声が聞こえて、女性が男に迫られているのが視界にはいった。
「!!」
とっさに助けに入ろうとそちらに足を踏み出した時、ぼくっと鈍い音を響かせて、迫っていた男が崩れ落ちた。
どうやら女性が持っていた鞄で殴りつけたようである。
少々呆気にとられ、助けに入ろうと握った拳をそのままに彼女を眺めていると、バチリ、と視線が合った。
―――どくん。
何故だか、胸が大きな音をたてる。