第3章 蒼き竜と虎の娘③~恋い恋う~
「…な、に…?急に…そんなこと…」
ようやく絞り出した声はかすれて、うまく言葉にならない。
「…某、ずっとお嬢のそばにおりました…お嬢が誰を見つめてたか、そのくらい気づくでござるよ」
苦笑して、そっと頭を撫でてくれる。
その手があまりにも優しくて、あたたかくて。
私はついに、堪えきれなくなって涙を零した。
「……す、き…なの…どうしても、彼が…好きなの…」
ポロポロと涙が、想いが零れて、どうしようもない。
「…でも、同じくらい、武田のみんなも、大切で…私、は……!!」
突然、ぎゅうっと幸村のあたたかい腕に閉じ込められる。
「…某も、お嬢が大切でござる」
「…ゆき、むら…」
「今までも、これから先もずっと…お嬢は某の、いや…武田の大切な人でござる」
涙が余計溢れそうな。
優しい、優しい…それでいて、少し切ない声が私を包む。
「大切な人が、こんな風に泣いてるのは皆、嫌でござる。お嬢にはいつだって笑顔でいて欲しい…お嬢が笑顔でいられるなら、それがどんな道だったとしても、応援するでござるよ」
誰よりも、無鉄砲で。
誰よりも、真っ直ぐで。
誰よりも、私の味方でいてくれた人。
誰よりも、何よりも優しい幸村を傷付けても。
それでも私は、彼が愛おしい。
「…っ…ゆき、むら…ありがと…ありが、とう…」
ごめんなさい、はきっと言ってはいけないと思ったから。
応援すると言ってくれた幸村に、私は何度もありがとうと言った。
「…これで、良かったの?」
しばらくして、泣き止んだお嬢を部屋に送っていった帰り、すっと現れた佐助がぽつりと呟いた。
「…良いのだ。ゆき様には…惚れたおなごには、幸せになってもらわねば…」
「…そうだね…俺様も、お嬢は笑ってる方が好きだしな~」
笑って、俯く幸村の頭をぽんぽんと撫でる。
「ね、旦那。今日の旦那、最高にイイ男だったよ」
ぽたり、と一粒。
熱い雫が、冷えた廊下に想いを落とした…。
○to be continued…○