第10章 初デート
「ねぇ、新山くん。」
私はPCと格闘しつつも新山くんに声をかけた。
「はい。」
彼は真面目に仕事をしながらも返してくれる。
そう返す彼は真剣な眼差しをしながらも、優しい瞳をしていた。
「なんでそんなに私にやさしくするの?」
私がぶつけたのは最大の疑問だった。
「それは…」
新山くんは一度答えを言うことを躊躇った。
「部長が好きだから優しくしたかっただけですよ、特に意味はないです。」
そう言う彼だが、私には大きな意味に思えた。
私たちは真剣に仕事をしながらプライベートな話を真剣にしていた。
仕事をしながら話すのは、私がこれ以上向き合う覚悟がないと言うことを表し、それを新山くんが感じ取っているからだった。
「…優しくされても私はあなたの気持ちには答えられないよ。」
私は冷たく言い放つ。
だって、優しくされたら少しでもまだ脈があるのかもって私は思っちゃうから。
けれど彼は私の予測している答えとは違う答えを出した。
「僕は、あなたが幸せならなんでもいいんです。別に僕のことが嫌いでも、本当になんでもいいんですよ。」
彼はそんなことをいいながらたんたんと仕事を続ける。
「でも」
私がそう言えば被せるように彼は話す。
「僕が初めて会ったとき、あなたは既に兄のモノでした。それから数年、あなたがこの配属先になって、僕もその少し前にこの部署に配属になって。運命だって思った、思いましたよ。でも…」
その間少しだけ静かな時間が流れる。
そして彼のカタカタと打っていたキーボードを叩く音も彼が話すのを少しだけやめた瞬間止まった。
「その頃には、外殻は兄のモノであなた自信も自分は兄のモノだって思ってたと思いますけど、僕から見ればとっくに心は本部長の…氷山さんのモノになってたんですよ。」
そう話す彼の顔は暗くなっていた。