第9章 何事も全力で
裕Side
会社から帰宅するため駐車場へと行く。
いつもなら由架を隣にのせ帰るのだが今日は違った。
「ごめん、さっき部下の子が仕事終わってなくて手伝ってから帰るから先帰ってて!」
そんなメールが俺の携帯に届いたのはエレベーターに乗ってすぐのことだった。
さっきフロアを出たときにさらりと男が仕事を続けているのをみた。
多分そいつの手伝いだろう。
「初日から残業か。」
俺は呟く。
あいつらしい、俺はそう思いながらメールを返信した。
「わかった、今日は晩飯は俺がつくって待ってる。頑張れ。」
恐らくその言葉をあいつは素直に受けとるのだろう。
正直、自分以外の男と二人きりで残業していると言うことに少し苛立つ。
けれどそれがあいつの今の仕事だ。
俺が首を突っ込む立場でもない。
俺は車を発進させる。
ふいに隣の助手席を見ればそこには俺の鞄だけがポツリとある。
今朝は一緒だったんだけどな。
頭のなかに今朝の風景が少しだけ蘇った。
日に日に離れている時間が少しでもあると寂しくなってしまうことに恐怖さえ覚えた。
こんなことを言ったら由架は何て言うだろうか。
「気持ち悪い」
と少し笑いながら言うのだろうか、
それとも
「ありがとう?」
と上機嫌に微笑むのだろうか。
どちらにせよ、俺は嬉しいがそれを言うことはとても恥ずかしい。
だからこの事実は俺のなかだけに封じ込めることにした。
やがて自宅へと到着する。
俺はその日、由架の笑顔を浮かべながら晩飯を作った。
今日も由架の笑顔が見たくて。