第4章 私の好きだった人
突然溢れだした涙に自分のことなのにびっくりした。
「俺がもうゆかに気がないとでも思ったの?」
彼はそう言うと私に近づき、抱き締めた。
「何してんの、やめてよ。同情なんていらない。出てってよ。」
「嫌だ。好きな女泣かせて帰ったりできない。」
抱き締められた時に思う。
[前は幸せだったな]っと。
けれど今は抱き締められても嬉しくなかった。
私はもうこの人を好きじゃないのだろうか。
答えはでない。
「君はさ、もう俺のことは好きじゃないよね。けどまだ好きだって勘違いしてる。」
そう言うと彼は私から離れて立ち上がる。
「だからさ、自分の気持ちと向き合って。俺にいい思い出をくれてありがとう。」
そう言って、私の涙を拭い帰ってしまう。
彼は私の事が嫌いになった訳ではないということだけは確かだった。
けれど、彼のいっている事が本当なのかそれは定かじゃない。
一度止まった涙は再び溢れだす。
そして私は勢いに任せてこの部屋の管理会社に電話をかけた。
「今月一杯で部屋を出ようと思います。」
そう電話すれば話はトントン拍子に進み、後日書類にサインをすれば解約は完了するらしい。
[あっけなかったな。]
その言葉だけが心に広がった。
しばらくしても全然涙は止まらなくて。
突然携帯がなった。
「もしもし…グスッ」
半泣き状態で誰かも確認せずに電話に出る。
誰でもいいから声を聞きたかった。
「日向?大丈夫か?」
よりにもよって部長だった。
けど、そんなこと気にしてる余裕もなくて。
「…大丈夫じゃないです。」
らしくない発言をした。
「今から行く。少し待ってろ。」
そう言って部長は電話をきった。
あの人は本当に優しいのか意地悪なのかわからない。