第4章 私の好きだった人
「何…しに来たんですか。」
私は言葉を振り絞る。
前のように話すことは自分には到底できなくて、カタコトな敬語になってしまう。
「あのときはその…悪かった。謝りたくて今日は来た。」
そう彼に言われてびっくりした。
彼は一切悪くない。
どちらかと言うと私に否がある。
「こちらこそ…ごめんなさい。」
互いに謝ったあと謎の沈黙があった。
「よかったら、どうぞ。」
私はそう言って彼を招き入れた。
リビングに彼を通すと端の方に座る。
前からずっとそうで、半同棲してたときも自分の家のように振る舞っていいのに端の方に座っていた。
私は彼にお茶を出して少し離れた場所に座る。
「ゆかはさ、過去に付き合ってた男も家の中に入れちゃうんだね。」
そう言って彼はさっき出してあげたお茶を一口飲んだ。
「幸弥だから、いれたんだよ。」
私はそう呟く。
それからも気まずい時間は続いて。
[本当にこの人、何しに来たんだろう。]
そう思ってしまった。
「あの、さ。」
彼は再び口を開けた。
私は不思議そうに思いながら彼の方を見る。
「この部屋契約解除してほしいなって思ってます。」
そう彼から言われ、私は目を丸にした。
「な…なんでですか。」
「俺が勘違いするから。」
私が問えば彼はそう答える。
「何を勘違いするんですか。」
「まだ俺に気があるって勘違いするから、俺が自分に自惚れるから。」
再び私が問えば彼はそう答えた。
何が勘違いするだ。
私がフッた訳じゃない。
私がフラれたのだ。
なのに、何でそんなこと言うの?
「私にもう気はないくせにそんなこと言わないでよ。」
そう言ったとき、涙がほほを伝った。