第3章 上司のしたかったこと
会社に戻ってから、俺はいつもの調子に戻った。
黙々と仕事を続けていれば、回りが不思議そうに俺を見ている。
さっきまで仕事に手がつかなかったのが嘘のようだった。
俺はあっという間に仕事を終わらせていて気づけば定時。
PCの電源を切って颯爽と会社を出た。
駐車場に行き、車を発進させようとしたときに気づく。
日向の家はどこだ?
よくよく考えれば俺は日向の家の場所を知らない。
前よったときに送ろうとしたときも鍵がないと言われ結局俺の家に直行した。
どうやって行こうとしていたのだろうか。
自分のことが不思議でならない。
しばらく呆然としていると、突然携帯がなった。
携帯の画面を見れば、そこには「日向由架」の名前が写し出されていた。
「はい」
そう言って電話に出ると日向はだるそうな声で
「さっきメール見たんですけど、ちょっとお願いしたいことがあるんですが。」
と言う。
俺はさっきこんなメールを送った。
「体調はどうだ。何か困ったことがあれば言え。」
何と送ったらいいか全然わからなかった。
それで結果的に送ったメールはいわゆる、無愛想なことになってしまった。
「あぁ、なんだ?」
俺は内心そんな返しをしながらもすごく喜んでいた。
「晩御飯になりそうなものをよかったら買ってきてほしいんですけど。」
そう、か弱そうに言う日向に俺は「何がいい。」と聞く。
「うどんとかがいいです。すみません、お言葉に甘えてしまって。」
喋っている時もどこか苦しそうな日向の声を聞いているだけで辛かった。
だから俺は日向に「わかった。悪いが、メールか何かに住所を送っておいてくれ。」と言って電話を一方的に切った。
電話に出たときは、電話がかかってきたことが嬉しかったが数分でその嬉しさは悲しみへと変わった。
自分の好きな人が辛そうにしていることはこれだけ悲しいのか。
そう、一つ学んだ気がした。