第12章 上司と部下の張り合い
「でも今私が抜けたら…」
私がそういいかけると
「確かに困る。けど、この書類を届けることを任せることもお前にしか俺は任せられない。だから頼まれてくれないか?」
と言った。
本来、これは彼が届けるべき物なのだろうが今彼が抜けると私が抜けるより、もっと訳が悪い。
「わかりました、お預かりします…。お渡しするだけで大丈夫なんですよね?」
「あぁ。頼む。」
私は本部長から書類を受け取り、フロアを出た。
会社の前をひたすらパンプスで走って、タクシーを捕まえて…。
何とか先方にお渡しすることができた。
けれど、問題は帰りだった。
どれだけタクシーを捕まえようとしてもなぜか周辺にはタクシーが走っていなかった。
かといって、タクシーの番号を知るわけでもない私はただひたすら歩くことにした。
早く、帰らないと。
それだけをただひたすら思って。
最初は走ってたけど息が続かなくて。
自分の息が切れない程度に歩く。
バス停などの場所も知らないところでこんなことになるとは思っていなくて。
路頭に迷っている気分にまでなった。
やがて、踵や足の指が痛み始める。
あまりにも痛くて近くにあったベンチに座り、靴を脱いでみるとそこには血がストッキング越しに滲んでいた。
「痛い…」
私はそう呟く。
けれどそんな都合もよく、「大丈夫?」なんて声かけがされるわけもない。
ずっと一人で。
私が車の免許くらい持ってればこんなことにはなってないし、会社に早く帰って仕事に戻れていた。
みんなに迷惑もかけてなかっただろうに…。
自分をひたすら攻めた。
それで思い出す。
会社に連絡していないことを。
私は慌てて、裕に電話をかけた。