第11章 部下の憂鬱
裕Side
手を洗って、乾かしていたときのことだろうか。
見覚えのある、人影が中へと入ってきた。
「新山?」
そう思わず声を発した。
「…本部長?」
そう聞き返され、頷く。
「どうして…こんなところにいるんですか?
」
それはこっちの台詞だ。
そう思いながらも俺は「プライベートだ」と返した。
「あ、日向さんとですか?」
そう嫌みに発す、その言葉は哀しみに満ちていた。
「さぁな、どうだろうな。」
話を流して余計な噂がたたないようにあしらう。
「新山は?」
「新境地の開拓といったところですかね。」
俺が聞いた問いにそう答えた新山に驚いた。
新境地の開拓?家庭用の熱帯魚にでも興味があるのだろうか?
「意外とそう言うのに興味あるんだな。」
「…?違いますよ、勘違いしてません?」
新山はそういって俺を壁へと追い詰める。
「なんだよ、お前」
俺の声が二人以外誰もいない空間へと響く。
「やっぱ、やめました。」
そういってあいつは俺の胸ぐらを掴んだ。
「本当は新しく[女]の新境地を開くつもりでしたけど」
そう言う新山の顔は段々と冷たいものへと変えていく。
「やっぱり、本部長から日向さんを奪うことにします。」
そう言うと最後に少しだけ微笑んで空間の奥へと去っていってしまった。
「なんなんだ、あいつは。」
俺はそう独り言を呟いて、由架の元へと戻った。