第11章 部下の憂鬱
手を洗って戻ってきてから何故か裕の機嫌が悪かった。
「どうしたの?体調悪い??」
私がそう聞いても
「なんでもない」
「気にしすぎじゃないか」
としか返さない。
けれど私も彼と伊達に生活をしてきたわけではない、それくらい見ているだけでわかった。
私は少しだけ不審に思いながらも、館内を彼をつれて回っていた。
すると不意にすれ違った人に何となく、見覚えがあった。
[誰だろう]
そう思いながら振り返ろうとする。
するとさっきまで私の後ろを歩いていた裕が突然、私の前を歩きだし私の手を引いた。
「あ、裕!?」
私は慌てて声をかける。
けれど彼は振り向かず、ただひたすら私の手を引いて前へ前へと歩く。
それはまるで、何かをさせているかのようだった。
そしていつの間にか私たちは出口付近まで来ていて私は不意に呟く。
「終わっちゃったな。」
私がそう呟くと背後から
「まだ終わりませんよ」
と声が聞こえる。
その声の先を振り替えると何故か、新山くんがいた。
「え?どうしてここに?」
私がそう言うと彼は
「女の子とデートしてたんですけど、その子帰っちゃって。今一人で帰宅しようと思ってたんです。」
と言った。
「さっき、本部長とはお手洗いで会ったんですけど聞いてませんでしたか?」
そう言う彼の言葉を聞いて私は裕の顔をみる。
すると気まずそうな顔をしていたことで裕が避けていたものが何かを察した。
そしてそんな裕の元に一本の電話がなった。
私が「出なよ」と言うと彼は気を使いながらも電話に出た。
どうやら仕事の電話のようだった。
「はい、はい、え?今からですか。」
どうやら会社に来いと言われてるような素振りだった。