第10章 初デート
裕Side
「それでな、兄さん。」
俺はあのあとあたかも用事があったかのように振る舞い、「先に帰れ」等といってバーを出たものの本当は用事なんてなかった。
ただ単にあいつの隣にいる惨めな自分が嫌だった。
それでいく宛もなく何となくついたのが兄さん夫妻の新居だった。
俺がそこにいくと二人は嬉しそうに向かい入れてくれた。
ありがたい話だ。
それで兄さんに自分の後悔を淡々と話してた訳だ。
何であそこでかっこつけてしまったのか。
なぜ自分の気持ちを素直に言えなかったのか。もう後悔しかない。
それを兄さんは「そうか」となんの文句も言わずに聞いてくれる。
こんな兄さんだから俺はこの人を心から尊敬して慕えるのだろう。
その横で莉架さんはそれを微笑みながら見ていた。
俺が兄さんに相談しているところを見たことがなかったからだろう。
家族以外の人間にはこんな弱い姿は見せたくない。
けれどもそれでも抵抗がないということは自分が莉架さんを兄さんの配偶者として認めたのだろう。
元々認めてなかったつもりではないが、所詮戸籍上だけのものだと思ってた。
けれどいざ日にちがたってみると莉架さんのことがだんだんと本当の家族のように思えてきた。
これも俺のひとつの進歩なのだろうか。
けれど自分じゃ全くわからない。
するとしばらく話を聞いていた兄さんは俺に
「お前も変わったな、すごいと思う。兄としてここまでの変化を誇らしく思うよ。今まで彼女一人としてつれてこなかったのに。まさか自分がした彼女に対しての失態を話されるなんてな。」
と笑いながら言った。
付き合っていることを言ったとき、少し反対した兄だったが、こう言ってくれるとは思っていなかった。
「それじゃ、今まで彼女がいなかったみたいな言い方じゃないの…やめてあげなよ?」
莉架さんはそういって俺たち兄弟の目の前にノンアルコールビールの缶を一つづつおいた。
「これ飲んだら、帰ってあげて。すこし天然だったり気が強い妹だと思うけど、根はいい子だから。」
そう言われ、俺は
「はい。」
と笑顔で返事をした。