第10章 初デート
自分がまだ少し前の状態から立ち直れてないことをこのときに感じた。
前の彼のことが好きなわけじゃない。
けれど[嫌いになったわけでもない。]
そこに被せて昇格や、新山くんのことが重なり、私の頭のなかはがちゃがちゃになっていた。
「何がだめ人間だ…マイナス思考はやめろ。俺はお前にとって重いのかって聞いてるんだ。」
そういう彼は私の顔を今日一度も見てくれていない、そんな気がする。
「…私は別に新山くんのことが好きなわけじゃない、大事な部下として向き合ってる。けれど彼は私のことを上司として向き合ってくれない。ただそれだけのことだよ。」
私は自分の思っていることを言ったつもりだ。
けれどさっきの言葉じゃまるで新山くんだけが悪いみたいになる。
それは彼に申し訳ない。
だから私は補足で、
「彼の気持ちをキッパリ断れてない私も悪いと思ってる。」
と言った。
裕は相変わらず不機嫌そうで私に顔を向ける様子は一つもない。
「だからなんなんだ。俺に安心しろって言うのか。お前は俺のものだって自覚はあるのか!」
それは彼が初めて私を自分の物だと言ってくれた瞬間だった。
「…ごめんね、鈍感で。」
そう言うと自然と涙が流れていたことに気がついた。
それをみて彼は私に綺麗にアイロンのかけられたシワひとつないハンカチを無言で手渡した。
「ありがとう。」
お礼を述べてからハンカチを受け取り、それで涙を拭う。
私は何がしたいのだろう、私がしたかったこととはなんだろう。
今の状況は私の望んでいた物だろうか。
私は再び、現状を考えさせられることになった。