第10章 初デート
私は裕と一緒に会社を出た。
家じゃ、冷静になって話せないって思ったから。
私が行った場所は…
[数ヵ月前までよくいっていたバーだった。]
私が扉を開けようとすると彼は無言で私より前にでて扉を開けてくれた。
私はそれにありがとうといって店内へと足を踏み入れた。
二人で店のなかに入ると私はカウンターではなく、ソファー席へと足を向けた。
席に座って適当にお酒を頼む。
ここに二人で来るのは初めてな気がする。
偶然会うことはよくあった。
けれど彼とここではじめて会ったときはまだ、悪い意味で意識してたから。
まさかこんな関係になるなんて思ってなかったな、と思い出す。
あの頃は[大嫌い]だったけど、それは彼の性格や中身が嫌いだった訳じゃなかった。
私の仕事に対する向き合い方を変えられたのが嫌で反発してただけだって今頃気づけた。
けれど今はあの向き合い方になってよかったなと思えた。
今は彼が、裕が好きで、大好きで仕方がない。
けれど今の私がそういっても信じて貰えるのだろうか、そう心のどこかで心配してしまう。
私は彼のことを信じてないわけじゃない。
信じてる。
けれど彼は私のことを信じてくれているのだろうか。
ふいにそう思ってしまうのだ。
私と裕はそのまま、向かい合って席に座り、無言の時を過ごす。
するとしばらくして二つのお酒が並べられた。
それを彼は一口飲んで、私に話す。
「なぁ、由架。俺はお前にとって重い存在か…?」
私に疑問を持つ彼は俯きがちにそういった。
私はそれに関して全力で否定した。
「裕に悪いところは何もないよ…ただ、私がダメな人間ってだけだから。」