• テキストサイズ

novel

第1章 兄弟のはなし





笑い声が静まると、兄がまた夜空を指さした。
一瞬、兄の顔が真剣な表情になったような気がして、弟はそちらをじいっと見つめたが、兄が指さす方をと促したので視線を空に戻した。
弟はなんだかどきどきとしていた。

「あの明るい星がわかるか? あれは北極星っていってな、地球から見て一年中ほとんど動かない星なんだ。ちょっとわかりにくいけど、あの星を繋いだ星座がこぐま座。おおぐま座は、こぐま座の周りをぐるぐると回るんだ」

弟がふうんと小さく呟けば、お前はそこまで興味ないか、と兄が腕を降ろした。
兄はなぜこの星座たちに詳しいのだろう。
弟はちらりと兄の方を盗み見たが、表情は夜の闇で陰ってしまって読み取れなかった。
しかし弟はわからなくてよかったと思った。
さっきのどきどきは、きっと気のせいだ。





身体を揺さぶられる感覚がした。
ゆっくりと瞼を開けば、兄が屈んだ状態でこちらを見つめている。
どうやら床に寝転がった後、そのまま眠ってしまったようだ。まだおぼろげな視界で辺りを見渡せば、部屋には西日が差しこんでいた。
弟は徐々に戻ってくる意識の中で、兄の瞳を見つめ返した。昨晩と同じように表情は見えなかったが、瞳だけはきらきらと輝いていた。
星とはまた違うけれど、綺麗だ。
のんびりと起き上がろうとすると兄が退いた。そのとき、兄が顔を少し伏せたが、瞳がちらついたのを弟は見逃さないでしまった。

「にいちゃん泣いてたの」

そんな言葉が口を突いて出そうになったが、晩飯だぞと兄が笑顔で言ったことで制された。
キッチンから漂う匂いで鼻が刺激され、弟の腹がぐうと鳴る。兄は明るい声でますます笑った。
早く来いよと言われて頷いて応えると、兄は先に行ってしまった。

弟は立ち上がりながら、これからは自分の部屋となる場所を改めて見た。
がらんとしたその場所は橙の光によって少し膨張して見えた。兄の家具があった所を光が突き抜けている。
そしてようやく、はっきりと気が付いた。兄はここから居なくなるのだ。
弟は無意識に自分の洋服をぎゅうと握りしめた。
ああ、ここは自分には広すぎる。



fin



※いらない補足:こぐま座は北半球では一年中見ることが出来る。
/ 13ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp