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novel

第1章 兄弟のはなし





いつの間にか別れの日が迫っていて、兄の荷物は整理されていた。
部屋にあるものは自分の物と、二人で使っていた深く濃い茶色の木製タンスに、緑の小さな本棚、お揃いの勉強机と椅子。兄のいくつかの家具は、もうここには無くなっていた。
日に日に、二人の部屋だった場所はがらんと開けていく。 不思議だなあ、と弟は呟いたが、そういえば先ほど廊下に兄の大きな鞄が置いてあるのを見た。

そうか、明日の朝には兄が遠くへ出ていく。
床の上にごろんと寝転がってみれば、天井は思っていたよりも遠かった。窓から差し込む陽の明かりが暖かい。
そんな晴れた日の昼下がりだった。





昨晩、二人は窓からの夜空を一緒になって見上げた。
満天の星空に、弟はわあと息を呑んだが、一方で兄は言葉にならない息を吐いていた。

「にいちゃんは、星座ってしってるの」
「この時期のやつなら少しな。たしか、あの辺りがオリオン座。わかるか?」
「どれ?」

きらきらと瞬く光の粒を、兄の指が数えていく。ひとつ、ふたつ、みっつ…。兄がなぞっていく先を弟は目で追った。
はじめは疎らに散らばっているようにしか見えなかった星々が、やがて弟の目にも慣れてきた。
星を繋げていく兄の指はまるで絵筆のようで、なめらかに筆跡を走らせる。
ふと、弟がひとつ星座をなぞってみせた。

「じゃあこれは?」
「お、よくわかったな。それは北斗七星だ」
「ほくとしちせい?」
「ええと、こう繋げればおおぐま座」

兄が繋いで見せたものは、弟にはよくわからなかった。スプーンにしか見えなかった、と呟けば、それも正解だと兄は笑ったので弟も自慢げに笑い返した。


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