第8章 明日の夜も、会いましょう【忍足 謙也】
「先輩ー!!」
大阪の冬はとても寒い。
吐く息は白いし、コンクリートは凍っていてツルツルだ。
手袋に、耳あてに、マフラーにダウンジャケット、そして鼻を真っ赤にして走って来た彼の髪の毛は、夜なのにとても輝いて見える。
「走らんでええよ!転んだらあかんし!」
「へーきやっちゅーねん!
それより、遅くなってもうてすんません!」
「ええよ、気にせんといて
ほな、行こう」
明日は、1つ下の後輩、謙也くんの受験日だ。
元々は私は四天宝寺中学の男子テニス部マネージャーをしていたけど、1つ下の後輩で仲良くしてたのは白石くんくらいで、謙也くんとはそんな関わったことなかった。
卒業してすぐ、白石くんから、謙也が先輩と同じ高校に行きたい言うてるんですけど、という連絡がきて、そこから話すようになった。
たった一年だが、だいぶ距離は縮まったと思う。
私は正直、謙也くんに好意を寄せている。
けど、謙也くんも夏まではテニスで頭がいっぱいで、引退したらすぐ受験に切り替えなきゃいけなくて、恋愛なんてしてる暇もない、と言う感じだと思う。だから明日の試験の合格発表、つまり約1週間後、受かっていたら告白しようと思っている。
私が、受験対策として、色々していたのにも関わらず、不合格になってしまっては、好き嫌いの話以前の問題になってしまう。
とはいえ、彼は頭がいいのでそれほど心配はしていないが。