第2章 強い男
―パシン、パシンと竹刀の打ち合う音や威勢のいい掛け声が響く道場で、25歳にしてついに天然理心流に入門した歳三の姿を眺めながら、つい笑みをこぼす。
「やっぱり歳さん楽しそう」
よかった、と道場の片隅で呟けば、宗次郎(後の沖田総司)がひょっこりやってきて。
「ねぇ、ゆきさん。どうやって土方さん口説き落としたんです?若先生が何度誘っても入らなかったのに」
「意地っ張りだからね。本当はずっと入りたかったんだよ」
「ふーん?それだけじゃないような気もしますけど」
「…生意気」
にやり、と宗次郎が笑えばじとり、と睨み返されて。
「あはは!怖い顔しないで下さいよ」
「…誰のせいだか……ま、いいけど…」
苦笑してから、再び笑みがこぼれる。
「でもね、本当に歳さんをやる気にさせたのは私じゃなくて…勝ちゃんだと思うよ」
「若先生?」
「うん。歳さんは勝ちゃんに出会ってから、『武士のようになりたい』っていう夢から、『武士になりたい』に変わったもの」
きっかけは、泣いていた幼馴染かもしれないけれど。
彼はもう、共に同じ道を歩む友を、仲間を見つけた。
これから先、掲げた夢は彼一人のものではなくなり、彼が仲間と共に背負っていくものになるだろう。
そして彼はいつか、
武士になるのだろう。
彼の思う、強い男に。
「…だからさ、見たいと思っちゃったんだよね」
「え…?」
「歳さんが、武士になる姿を…どうしても、ね」
そう。
どうしても、見たいと思うのだ。
彼自身が思い描く『土方歳三』という男を。