第1章 叶えたい夢
「はい、取れた。いくら色男でも髪に花挿してちゃ、吉原の芸者さんたちに笑われるよ?」
「…うるせぇ」
「顔赤いよ~?」
ふい、と顔を反らせば、ゆきは益々笑みを深くして。
「…ったく。いい性格に育ちやがって…」
もはや口では適わない彼女をじとり、と睨めば。
おかげさまで、と鮮やかな笑みが返ってきた。
「だいたい武士になろうって人がこんなところでさぼってていいの?勝ちゃんは真面目に剣の稽古に励んでるっていうのに…歳さんときたら、道場破りまがいのことして、石田散薬売りつけるわ、吉原で浮名は流すわ…ほんっと、どうしようもないんだから…」
ぐ、と返す言葉につまって、俺は顔を反らす。
何一つ、反論できない。
この頃の俺は、武士になりたくて、なりたくて。
でも、自分の身分ではどうしようもない事も知っていたから、常にどこか苛立っていた。
どこかに機会はないかと、どうしたら百姓が武士になれるか…それともこのまま、自分は百姓として一生を終えるのか。
そんな葛藤が常に自分の中で渦巻いていて。
剣術修行と称して、道場破りまがいの喧嘩して、吉原で憂さをはらして、自分を誤魔化しながら日々を送っていた。
―自分で自分に、嫌気がさすほどに。
ふぅ、とひとつのため息が聞こえて。
ため息をついた主を見やれば、ゆきは頭上の桜を見上げて、ふわりと笑んだ。
「それでも私は、歳さんが好きだよ。貴方は昔から何一つ、変わっていないから…」
「…!」
多くの人が人生の途中で諦めてしまう幼き頃の夢を、
大事に大事に抱えて、あがいている貴方だから。