第1章 叶えたい夢
「だから大丈夫だよ、歳さん。必ず機会はくるよ。焦らないで、とりあえず勝ちゃんのところの門下生になって、剣術修行に勤しんだら?…ずっと歳さん来てくれるの、勝ちゃん待ってるよ?」
やんわりと耳に入る声音は、いつも優しく俺を包む。
ずっと抱えていた焦燥感も、すべて消し去るように。
「…あの人は、歳さんと一緒に武士になりたいと思ってるんだから」
―共に武士を目指すのは、親友との約束でしょう?
そう微笑む彼女は、まるで春のひだまりのようで。
いつだって、俺の心を捕らえて離さない。
「…考えておく」
「全く、素直じゃないんだから」
「…うるせぇ。何とでも言え」
全くもって、この4つ年下の幼馴染には適わない。
いつだって、なんてことのないように俺の背を押して、微笑んでみせる。
もう泣きながら、俺の助けを待っていた幼い少女の頃とは違うのだと、そう言われているようで。
何だか少し、寂しい気もする。
「さて…」
話は終いだと立ち上がって、薬箱を背負いながら、ゆきが持っていた使いの包みを持つ。
「歳さん?」
「帰んだろ?どうせ同じ道中だ。…行くぞ」
「ありがとう…!」
嬉しそうに微笑んで、俺のあとをついてくるその姿を、たまらなく愛しく思う。
けれど同時に、決してこの想いを持って、彼女に触れてはならないとも思う。
ゆきは本気で、武士になろうとする自分の背を、押してくれる人だから。
だから、触れてはならないのだ。
いつか夢と、彼女とを天秤にかける時がきたら…。
幼い頃、泣いていたゆきを見つけた時、思ったのだ。
彼女を傷つけたり、泣かせたりするものは、絶対に許せない。
―それがたとえ、自分自身であろうとも…。
翌年、歳三 25歳。
天然理心流門下生となる。
…桜花恋語 一話完。