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【薄桜鬼】桜花恋語

第6章 武士



片田舎の貧乏道場の主であった近藤さんが、「大名」として帰ってきたのだ。
日野では歓迎と祝いの宴が、盛大に催された。

その宴をそっと抜け出し、俺はあの桜の木へと向かう。

まだ花ひらくことはない桜の木を見上げていたら、懐かしい声が響いた。



「…おかえり、歳さん」

「…!」


振り返るとそこには、昔と変わらない笑みを浮かべるゆきがいて。
数年ぶりにみたその姿に、きつく胸を締め付けられる。


「一瞬、誰かと思っちゃった。でも洋装姿も似合うね、さすが色男」


軽口をたたきながら、俺の隣に立った幼馴染は、随分と大人びた雰囲気で。



一瞬、俺の知らない女に見えた気がした。




「…元気だったか」

「もちろん!手紙だって、送ってたでしょう?」

「…あぁ…でも、少し痩せただろう?」

「…!」


幾分か昔より線の細くなった頬にそっと触れれば、僅かに目を見張ったあと、ゆきはふわりとした笑みを浮かべて。

「私は家事に育児に大忙しだからね。歳さんこそ、痩せたでしょう?…また、戦なんでしょう?大丈夫…?」


頬に触れた手を、そっと握られて。


そのあたたかさに、不覚にも目頭が熱くなった。


知らず、気弱になっていた自分に気付かされて、思わず苦笑がこぼれる。

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