第6章 武士
「…あぁ、心配すんな。俺は大丈夫だ…ま、次に会うときはお前との約束を果たす時だろうがな」
「歳さん…!」
次に逢うのは来世だと、そう言った俺に、心配そうに瞳をゆらすゆきに、ひとつ笑んで。
「…もう、後戻りはできねぇ。俺たちは、たくさんの命を奪ってここまできた。そのたくさんの命を踏み台に、してきたんだ…。敵が錦の旗を掲げようとも、今更投げ出すことはできねぇ」
まるで、自分自身に言い聞かせるように。
どれだけ戦に負けようとも、幕府が朝敵と言われようとも。
俺は、この道を進んでいく。
「…そっか…」
やわらかい声が、耳に心地よく入ってきて。
ゆきは俺の好きな、春のひだまりのような笑顔を浮かべた。
「…歳さんは、武士であり続けるんだね」
「…!」
『武士であり続ける』
その言葉は、すとんと胸に落ちてきて。
あっという間に気負っていた心を、軽くしていく。
「歳さんは武士として…新選組の副長、土方歳三としての役目を果たしに行くのね」
だったら、私にできることは笑って、あなたを見送ることだ。
そう言って、ゆきは再び微笑んだ。
「…あぁ、そうさ。俺は武士だからな」
この先も自分は戦い続けるのだろう。
何よりも武士として生き、武士として…逝くために。
「でも副長さん。あまり生き急がないでね。あなたのことだから、これからもたくさんのものを背負っていくんだろうけど…生きて、果たせる役目もあるはずよ。あなたの役目が終わるまで、どうか…生きて…」
重い荷を抱えて、走り続けるあなたは、これからもたくさんの辛い思いをするだろうけれど。
どうか、命の使う場を間違えないで。
最期の時には、笑って逝けるように…。
「…馬鹿野郎。誰に物言ってんだ。そんな心配いらねぇよ」
くしゃり、と頭を撫でて微笑めば、ゆきもつられたように微笑んで。
「ふふ、じゃあ歳さん。……いってらっしゃい」
やわらかな声音と、その笑顔に俺はまた、背を押された。
「…あぁ、いってくる」
―最期まで、武士であり続けるために…。
…桜花恋語 六話完。