第4章 最終章
「黄緑色が好きなんですか?」
「緑系の色は好きですよ」
あの時をもう一度繰り返しているみたいだ、と思っていると壮馬くんはふわりと桜の花弁のように綺麗な微笑みを見せて、「でも、」と言った。
「俺は、君にカラフルな色彩を見せたい」
「……え?」
その笑顔に魅入っていると、左手の薬指に、冷たい感触と少しの重さを感じて視線を下げた。
「……っ」
そこには、虹色に輝くオパールがはめ込まれた指輪が薬指を通っていた。
まさか、とドクンドクンと高鳴る鼓動を感じ、また壮馬くんを見つめた。
「俺、斉藤壮馬って言います。
声優を、やってます」
このあと、私も名乗るんだ。
でも、今声を出すと涙が溢れそうで言えなかった。
「俺が声優を目指したきっかけは、…救う側の人間になりたいと思ったからです。」
優しい、優しい笑みでそう言う壮馬くんを見ると、涙が溢れてきそうで、必死に右手を口元にあてて堪えた。
「俺は、あなたの声を元に戻せたからと言って救えたとは思っていません。」
ぎゅ、と私の震える左手を、壮馬くんの両手が包み込む。
「ずっと、一生そばにいて、救っていきたい。オパールの石言葉にもあるように、幸福と希望をあなたに与えていきたい。…そして、無邪気なあなたを…優愛を、隣で見ていたい。」
オパールの石言葉は
『幸福』『希望』『無邪気』
…そして、オパールは4月の誕生石。
サァァ…
少しだけ強い風が吹いて、桜の花弁が私たちを包むように舞い踊る。
「……俺と、結婚してください」
ー瞬間、私の涙が落ちるのと同時に街灯に照らされている桜の花弁が輝いているように見えた。
まるで、私たちを祝福しているように。
…そして、私に勇気を与えるように。
「……はい…っ、」
そう答えると、涙に濡れた私の頬を壮馬くんの両手が包み、どちらともなく引き寄せられるように口付けをした。
薄く目を開けた先には、夜空に光る星たち。
その中に一際目立つ星がふたつ、暖かい光を放っていた。