第2章 第1話
『そ、壮馬さんがどうしてここに…!?』
はっと我に帰り、ベンチから立ち上がって壮馬さんと向き合う。
やばい、動揺しすぎて字が雑になってしまった…。
「ん〜…、優愛に会いたくなっちゃったから、かな…」
「…っ!」
目を細めてゆるりと口角をあげ、そう言う壮馬さんはどこか色っぽくて、胸がドキリと高鳴った。
しかし、その直後笑顔こそ崩さなかったが、雰囲気が少し不服そうな感じになってしまった。
「……??」
「…名前。"さん"に戻ってるよ」
「……!!」
そういえばそうだった…!!
『ご、ごめんなさい!!やっぱり慣れなくて』
本当に申し訳ない…!と思っていると、するりと手が私の頬を優しく撫でる。
「じゃあ、いっぱい練習しなくちゃね」
「……???」
練習、とは一体なんだろうか。と頭の中にはてなマークが浮かんだ。
「“壮馬くん”って口でぱくぱく動かしてよ」
「!!!!」
「ね、ほら……」
頬を撫でていた手はゆっくりと輪郭を伝い、私の唇へと移動する。
そして、急かすように親指が唇をなぞる。
「……ッ、」
恥ずかしさと緊張で唇が震えてしまう。
それでも…
それでも、名前を呼びたい。
「…〜〜っ」
“壮馬くん”
「!……もう1回」
“壮馬くん”
「うん、もう1回」
“そ、壮馬…くん”
「うん、……うん」
すると、壮馬くんは優しく私を抱きしめた。
そしてその綺麗な声が私の耳を支配した。
「聞こえる…。俺には聞こえるよ、優愛の声が」
“聞こえる”
ばっ!と勢いよく壮馬くんに離れて目を見つめる。
“本当に?”
「ほんと」
“嘘じゃない?”
「嘘じゃない」
込み上げる。
色々な感情が。
それが涙になって溶けていく。
ああ、あなたは、
私の心を溶かす春の陽だまりだ。