第1章 明日も笑おう
それはとても激しく荒々しい音楽。
雄弁で劇的なまでの旋律に心が震えた。
これは中学生の時、音楽の授業で聴いたことがある。
シューベルトの"魔王"。
多感な時期、この曲を初めて聴いたときの衝撃は今でも覚えている。
恐怖や不安が押し寄せてきて、なにより"映像"が頭から離れなかった。
それが今再び俺の胸の中に襲ってきた。
恐怖や不安が押し寄せる。
暗闇、憂鬱、陰湿。
「映像」が頭の中に流れ始める。
今までの3年間、ずっとバレーに費やしてきたけど、IHで負けた。
勝てない相手ではなかったのに。
敗けてしまった。
あの時の映像が流れ始める。
……いや、違う。
これは俺のではない。
確かにそういう気持ちは未だにある。
けれど、ピアノから聴こえるメロディーはもっと暗く重く冷たい。
憂鬱で陰湿で、浮き沈みが激しく、内側に眠る苛立ちや悔しさが音に乗って俺の心に響いてくる。
感情が、流れ込んでくる。
これはさんの……。
そう思った時、音楽は止んだ。
息を荒くする彼女。
声をかけようとしたが、出来なかった。
さんは、どこか遠くを見つめ、泣いていた。
こういう時、一体どういう行動を取ればいいのだろうか。
好きな人が目の前で泣いているのに。
その涙を拭うことができず、俺はただ彼女が泣くのを黙って見ていた。
そんな情けない俺の頭には"魔王"がずっと流れ続けた。