第3章 流麗な夢をキミと
思わずそっと自分の手に視線を落とし、さっきまでその手にあった温もりを包んで胸に当てた。
『菅原・・・お父様が私の結婚相手を決めてしまいました・・・私は初めて会うような方と結婚なんてしたくありません・・・』
「旦那様がお決めになられた方ならば、お嬢様は幸せになれると思いますよ・・・」
『幸せになんか・・・なれるはずありません。私の心は・・・』
「お嬢様、どうかそれ以上は・・・わたしはただの使用人で御座います。どうか、その事だけはお忘れになりませぬよう・・・」
『私を連れて、逃げてはくれないのですね・・・』
「わたしは・・・旦那様にお仕えする、ただの使用人で御座います・・・ 」
『菅原・・・』
「・・・お嬢様」
っと・・・・・・・・・なに、考えてるんだろうな、オレ。
どうもこんな格好をしてると、うっかり妄想世界へと足を踏み入れてしまう。
しっかりしろ、オレ!
今は自分が夢見てる場合じゃないだろ?
オレ達が、夢を見せてあげる時間なんだから。
顔を上げ、真っ直ぐ前を向く。
今は山口が椅子を引いてちゃんを座らせる準備をしていた。
頑張れ、山口。
音を立てずに、スマートに・・・よし、出来たじゃないか。
今日、何度も失敗していた山口が、ホッとした顔を見せる。
日向達がお菓子やケーキを運び、縁下が慣れた手際で紅茶を入れる。
『あ・・・カップが・・・』
清「お嬢様のお好きな、ウェッジウッド、ワイルドストロベリーで御座います」
縁「本日御用意致しましたのは、北東インド産のアッサム、ファーストフラッシュでお入れ致しましたロイヤルミルクティで御座います」
清水が家から急いで持って来てくれたカップと紅茶葉・・・全然知識の薄いオレでも分かるような有名所じゃないか。
それに清水から説明を受けてた縁下も、まさにそれっぽく言葉を繋いでいる。
みんな・・・カッコイイな。
『あ、あの!』
縁「いかがされましたか、お嬢様?」
『あの、皆さんも一緒に・・・』
縁「大変有り難いお言葉では御座いますが、私共使用人はお嬢様と同じ位置で食事をする事は許されておりません」
さすが縁下・・・徹底してるな。
『そう、ですか・・・』
そろそろ、頃合い・・・かな?
大地を見ると、頷づくだけで返事をくれた。