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ハイキュー!! 秋祭りバトン!

第1章 明日も笑おう





その部屋は、真っ黒なグランドピアノだけがあった。
テーブルも椅子もテレビも何もない。
真っ白壁に真っ黒いピアノ。

ここだけが現実の世界と切り離された場所。
そんな気がした。

「殺風景でしょ。ここはピアノだけを弾きにくるの」
「ピアノ、だけ?」
「そう。家だと、集中できないから」

そう言った彼女の横顔は悲しそうだった。
あまり家族とうまくいっていないのだろうか。
そんなことを心の中で思った。
18歳の子供戯言なんてきっと誰にも届かない。

「そう言えば、名前聞いていなかったね」
「茂庭です。茂庭要。伊達工でバレーしてました」
「要くんね。私は」

そういうと、彼女はピアノの前に座った。
軽くピアノの鍵盤を叩いてみせると、俺のほうを向いて言った。

「何か、リクエストはある?」

リクエスト……?
あまりそういうのに詳しくなくて、戸惑う俺。
口から出たのは先ほどまで弾いていたラピュタの曲。
「アニメ好きなんだね」と笑う彼女。
別にそういう訳じゃない。
知らないだけだ。

気付くと外は真っ暗になっていた。
俺は床に座って、ずっと彼女の弾くピアノを聴いていた。
あの曲は「ハトと少年」というらしくて、そのまんまじゃんと思った。
その後は俺でも知っている曲が流れた。
「キラキラ星」「となりのトトロ」「アンパンマンのマーチ」

彼女の弾くピアノは人の心を動かす。
聴いていて安心する。
指がまるで生き物のよう。
惹きこまれる、彼女のピアノに。




「また、来てもいいですか?」
「え?」

帰り際、さんに言った。
彼女のピアノをもっと聴いていたい。
彼女にもっとピアノを弾いてほしい。
いつの間にか彼女に惹かれていた。
一目惚れなんてまさか自分がするとは思っていなかった。

「さんの弾くピアノ、もっと聴きたいんです」
「……」

少しだけ俯くさん。
なにかまずいことでも言っただろうか。
そう思った時、

「いいわよ。だけど一週間後に来て頂戴」
「え?」
「テーブルとイスが必要でしょ?」

俺は満面の笑顔を彼女向け、頭を下げて家へと帰った。
彼女に会えるのは一週間後。
だけど、そんな時間さえも愛しいと、そう思った。

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